茄子 アンダルシアの夏
これは昨日の「キャシャーン」とは異なり、黒田硫黄の原作はすでに読んでいて、しかもとても好きな漫画だ。

- 作者: 黒田硫黄
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2001/07
- メディア: コミック
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原作を変に捻じ曲げず、変に観客に媚びることなく、その点は好感が持てる映画なのだけど…。
なんというかすべてが物足りない。薄味だ。あっさり味って言うか薄味って感じだ。
暖かくも閉塞的な故郷を離れたくて、勝負の世界へ行きたくて、血縁が連綿と続いていく故郷を離れたくて、どこか遠くへ行きたくて…そういうペペの渇望が原作のテーマであったのだけど、原作を知らない人にはかなり薄味に感じるんじゃないかな。
まず一番問題なのは、レースシーンと故郷の人たちが集まっているシーンとの温度差が希薄なこと。この希薄さゆえに、ペペの渇望が映画の観客には原作ほどに印象付けられない。
レースの過酷さが伝わってこない演出なのが一番の原因だ。お話的な問題ではなく、アニメーション表現的な問題だろう。あまりにもダイナミズムが足りない。アタックするときダンシングで加速していくカット、ゴール前スプリント、そういう見せ場中の見せ場で、現実のレーサーよりもあまりにも躍動感が足りない。っていうか集団の中で足をためているような状態のカットですら、現実のレーサーより躍動してない。体に筋肉があって血が流れている感じがしない。表現が平面的で表面的だ。
普通、アニメになったら現実より誇張されるもんなんじゃないの? なんでこんなにあっさりした動きにしてるんだろう。
また、どうせ説明的なカットを増やすのであれば、スペインという国が、レースに対して伝統的にたいへんアツい情熱を持つ国であり、田舎の人間がサクセスする数少ない手段だということが伝わるようなカットをさりげなく挿入すべきだったのではないか。
そういうベーシックな背景を知っているのと知らないのとでは、レーサーになったペペと、地元で結婚する兄アンヘルとのコントラストが弱まって感じられてしまうだろう。
演出上疑問に思った点もいくつか。
TVで映し出されるペペを見て、叔父はペペのチームのスポンサーのことを「しかもベルギーのビール会社のな!」と誇らしげに語っているんだが、これは「なんで(地元)スペインではなくてベルギーなんだよ」という、ちょっと非難も混じったニュアンスだと、原作を読んだときには受け取っていたのだがどうだろう?
前振りとして、
「茄子のアサディジョ漬けをビールなんぞで飲む奴はたたき出す」
「(新婚の兄嫁カルメンが)茄子のように土地に根を張るように乾杯」
「近所にも外人が越してきたから(アサディジョ漬けを食べる)作法を教えてやらにゃ」
という流れがあったから、てっきりそういうニュアンスだと思っていたのだが。
ベルギーが自転車大国だから誇らしげに語っていたのか?
どちらにしろ、ここは非難めいたニュアンスで「ベルギーのビール会社」を持ち出すほうが、映画全体のテーマには適っているのではないか。
ラストシーンで、ペペがチームメートに茄子のアサディジョ漬けの食べ方を実演して見せるシーンがあるが、茄子を持ち上げて一度ためらってから食べるというように演出されていた。これは演出過剰なんじゃないか?
ここはひょいと持ち上げてあっさりと食べるほうが、故郷に反発しつつも持っている愛情を、ラストシーンとして表現する着地点として適切なのではないか。
レース後、暗闇の中をペペがクールダウン走行している中を、祝いを言うために追いついてきた兄と兄嫁(ペペの片思い相手でもあった)を相手に「ここじゃなくたって勝つさ。100でも200でも勝つ」と感動的なセリフを決めるシーンがあるのだが、映画中ではこれがクールダウン走行であるとはどこにも説明されないままだった。いままでさりげなく説明カットやセリフを追加していたのに、なんでここだけ省略したんだろう。
自転車レースを知らない人は、これがクールダウン走行だと気づかず、なぜにレースが終わったっていうのにいちいち走っているんだろうって思ってしまうのではないか?
音楽もちょっと納得できない。
ここはもっとスペインの土着性を感じさせるような曲のほうが、映画のテーマとして適っているのではないか。あまりにもあたりさわりのない,劇伴的な曲であるため、前述のように、ペペとアンヘルとのコントラストが弱まってしまう一因となっている。
エンディングテーマの清志郎は余韻を台無しにしてしまっていて最悪。自転車好きでネームバリューがある人って感じで清志郎を選んだのかもしれないが、よろしくないです。
音響効果は、特に声のアンビエンス操作など丁寧な仕事で悪くないんだけど、自転車のメカ音はもっと遠慮なく出して、レースのダイナミズム演出に寄与するべきだ。かなり物足りない。アニメの動き自体がダイナミズム足りないんだから、せめて音のほうで盛り上げてあげたいのに。
うむー、悪くはないんだけど実に物足りない映画だったなあ。