カナリア
以前に観た「害虫」の塩田明彦監督の映画。日常がいつのまにやら非日常に侵食され、非日常があたかも日常であるかのように現れる不思議な感覚が魅力な映画だった。
公式サイトのあらすじはこちら。以下ネタバレ対策ついでの余談です。
特に「害虫」は、大変に印象に残った。
子供のころに読んだSF小説で、見かけは普通の人間なんだが、レントゲンを撮ってみると、通常の人間の内蔵ではなく、なにやらぶよぶよしたゼリー状のかたまりが皮膚の中に詰まっているだけで、実はそれは地球に侵略してきた地球外生命で、徐々に勢力を増しているのだった…というようなものがあった(詳細すっかり忘れ)。
いかにも怪物的な外観の異星人がある日突然に町中に現れるというのも恐ろしいんだが、見た目は特徴なくとも、実は中身がぶよぶよ異星人である…というのもまた、別の種類の恐ろしさだ。
「害虫」は、中身がぶよぶよ異星人が日常に侵食してくるのを、わかっているのに手出しをできずに観察しかできないでいるかのような不気味さ、そしてそれを天災であるかのように、諦観をもって受け止めてしまう、異様な後味の悪さが大変印象的な映画であった。
閑話休題。
さて例によって、前情報はぴあに書いてあったあらすじくらいしか知らずに見たのだけど、この前2作の印象が、どうしてもバイアスになってしまったのは認めざるを得ない。どうしても前2作のような魅力を期待してしまう。
そういう面で見ると、正直期待外れな映画であった。
教団にとっての日常とは、我々にとっては非日常で、ハッキリ言っちゃえば狂気であるわけなんだが、そういった非日常を「非日常」としてしか描いていないのだ。
「教団にとっての日常」として教団内部を描いていないので、映画の観客である僕にとっては、単純に狂気の集団を安全な立場から観察しているだけで、他人事として受け取ってしまうのだ。それがたいへん物足りない。
先の例で例えて言えば、いかにも怪物的な外観の異星人の秘密基地を遠くから観察しているようなものなのだ。恐ろしいし不気味ではあるのだけど、いつのまにか自分の日常に侵食してくるかもしれない、という恐ろしさではない。そしてこの映画で感じさせるべきなのは、モンスター集団としての教団の存在ではなく、自分の日常と薄皮一枚のところにいる教団の存在であろう。
この点がこの映画で一番引っかかるところだ。
音楽は、非日常性を感じさせ、それを強調するような音楽であるため、せっかく登場人物が日常と非日常の狭間をいったりきたりしている微妙で危ういシーンで、音楽がそこに介入してぐいっと印象を非日常側にシフトさせてしまっている。狭間で揺れ動いている様を表現すべきポイントだと思うのだが…。
それになんといっても太鼓が、え、ここで太鼓?!って感じだ。なんか緞帳が降りてきそうな感じというか…。え?!という意外感は強烈に感じるのだけど、意外だ!というそれ以上の印象は無かった。
役者陣が熱演しているのは伝わってくるのだけど、演技の問題なのか脚本の問題なのか、そこらへんはちょっと判別し難いのだが、机の上で作られたセリフを、セリフとして語っているって感じで、いままさにその場で生まれたばかりの新鮮ホヤホヤな言葉! というリアリティをあまり感じられないことが多かった。
回想シーン中では、光一(石田法嗣)が洗脳直前までしか描写されないので、少なくとも食事をする前に教団特有のお祈りをするほどに洗脳済みのはずの光一が、教団に反して、どうしても妹を取り返したいと考える動機に、ちょっと矛盾を感じられてしまった。
もちろんすべてがすべてそんなわけではなくて、脱走中の光一が、教団を足抜け(?)して事業を始めている吉岡(戸田昌宏)と偶然出会い、ホーリーネームで呼び合っているのを、腰の引けた笑顔で見ている由希(谷村美月)の演技などはたいへん良かった。日常(あくまで由希にとっての、だけど)に非日常が覆いかぶさってくるときの戸惑いが実に良く出ていた。
反省室に監禁されている光一を、深夜こっそり訪ねてきた、光一の母、道子(甲田益也子)が、光一と一緒にお祈りを唱える際、励ますように監禁室のドアをバンバン叩くのだが、その叩き方の微妙な強さが、静かな狂気を感じさせて印象的であった。
「ユリイカ」「害虫」で良くも悪くも感じられた、突き抜け感が希薄で、なんかちょっと腰が引けてるなあ…と思っていたら、スタッフロールに「文化庁」というクレジットが。え?!どういう関わりがあるの?と思って今検索したのだが、イマイチわからず。
しかし、それを見たとたん、さもありなんと強く思ってしまったのだった。実際に文化庁がどのように関わっているのかはわからないのだが、スタッフロールに「文化庁」とクレジットされていて、さもありなんと反射的に感じてしまうような観劇後感だったわけだ。
映画を見る前に知らなくてよかったー。知ってたら、なおさらバイアス掛けて見てしまったであろう。