21グラム

現在放映中につきネタバレ注意。

21グラム (初回出荷限定価格) [DVD]

21グラム (初回出荷限定価格) [DVD]

敬虔なキリスト教信者として更生中の前科者ジャックが、クリスティーナの夫とその娘二人をひき逃げしてしまう。
脳死状態に陥ったクリスティーナの夫の心臓は、大学教授のポールに移植された。
ドナーが誰なのかどうしても気になるポールは、私立探偵を雇い探るうちに、ひき逃げ事件に行き当たる。いつしかクリスティーナに愛情を覚えるポール。
この3人を軸として話は進んでいく。

バラバラに進んでいるかのように思えた3人のストーリーが、やがてつながっていき、時間差で張られていた伏線が見事につながっていく構成が見事。時間軸はかなり過激に前後して流れているのだけど、映画後半まで見ていれば、充分つながりは理解できます。
お話的にはわりとオーソドックスな「罪と罰」映画であるものの、構成、編集、演出の手腕が見事で見ごたえがある。

意味深なタイトル「21グラム」が、ラストシーンのモノローグでしか活用されてないのはかなりガッカリ。
20年近く前の、何かの本で読んだあやふやな記憶によれば、この21グラムというのは、「魂の重さ」と呼ばれているものだ。どんな体重の人間でも、死んだ瞬間に21グラムだけ体重が減る(と主張している人もいる)ところから、これが人間の「魂の重さ」という説があるらしい(もちろん異論反論などあるのだが)。
僕はあらかじめ前情報は最小限で映画を見るので、てっきりこの「魂の重さ」がストーリー上の大変重要なキーワードになるのかと思っていたのだが、ほとんど関係がなかった。単にキャッチーなタイトルとして利用しているだけだった。

なんといっても、カメラ(映画人風に言うと「キャメラ」)が印象的だった。
ほとんどが手持ちで、常時微妙に不安定に揺れ動いている。これが大変にストーリーの雰囲気や編集とあっていて効果的だった。
この微妙なブレのおかげで、映画を見ている自分自身の目の延長として、映画世界に自分が存在しているかのような奇妙な感覚を何度も覚えた。
まれに据え置きで撮影しているときは、相対的に世界が静まり返っているような印象が強まる。特にジャックの車が画面を横切って、オフでクリスティーナの夫と娘を轢いてしまっている音が聞こえるカットで、大変効果的だった。

上記に関連して、ズーミングを全く(おそらく)使わない手法、カット頭に素早いパンニングから入る手法、カットを割らずパンニングで人物を切り替えていく手法、などなども、自分の目が延長されている感を強調していた。

役者陣の演技もかなり好印象。ジャックの息子の子役がすっごくうまくて驚いた。
シャルロット・ゲーンズブールを久しぶりに見たのだけど、いい歳の取り方してるなー。黒髪だったから最初気づかなかった。この半開きの口、どっかで見たことあるなぁとは思っていたのだけど。

音楽は最小限。ストーリーの小休止部分で、ときどき「ツイン・ピークス」を思い出させるようなアレ系の音楽が入る。編集とカメラ技術が優れているため、音楽ゼロでも緊張感は損なわれない。
ラストシーンで妙に圧迫感のある音響効果を使っていたのが残念だ。急にあそこで音だけが浮いちゃったような印象だ。流れを考えれば、さらっと流しちゃったほうが効果的だったんじゃないかなあ。

構成技術、カメラ技術が脚本に勝りすぎている印象はあるのだけど、全く退屈しない映画でありました。人にオススメするかというと、ちょっと微妙なものがあるんだけど。