ハチミツとクローバー / 羽海野チカ

ハチミツとクローバー 6 (クイーンズコミックス)

ハチミツとクローバー 6 (クイーンズコミックス)

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当初はCUTiE COMIC誌(宝島社)で連載され、その休刊後、ヤングユー誌で連載されることになったそうなのだが、僕が読み始めたのはヤングユー誌で連載が始まってからだ。

ああ、こりゃ人気出るよなあ。
「自分は他のフツーで世間に飲まれて安穏としているコとはちょっと違うのよ」と思いつつも「実は客観的に見たらたいしたことはないのかもしれない」「私って本当にこれでいいの?」と悩み始めるタイプとお年頃の青少年のハートをがっちり鷲づかみする要素にあふれている。
才能にあふれているのにロリキャラのはぐみとオモシロキャラの森田。自他共に認める飛びぬけた才能が認められている二人なんだが、このキャラで読者の親しみを得られる。
フツー人なのだけどとことんいい奴キャラの竹本と森田との、はぐみをめぐるライバル関係(でもはぐみは意に関せず)。
年上の未亡人にかなわぬ恋を続けるクールキャラの真山ときっぷのいい美人キャラのあゆとの微妙な三角関係。

…などなど、見事なくらいハートを鷲づかみするキャラと設定がバリエーション豊富に勢ぞろいなんだが、おのおのがうまいことつながっていて、違和感がない。
なにより、これらがいかにも「マーケティング分析の結果から企画されました」的な臭さが微塵も感じられないのがまたよい。この漫画の想定読者層が、そういうマーケティング臭さに敏感なことをよくわかっている(天然?)。
なので世代を超えて三十路男性の胸にもぐっと迫りくる、良い漫画となっております。

感情のドロドロによどんだ部分(特に嫉妬ですね)には必ず半透明の蓋をしてから描いている。完全にドロドロを見せないわけではなく、ちらりほらりとドロドロを伺わせているのだけど、決して蓋を開けて生々しくドロドロを描ききることはない。
なので全体に流れる軽妙なオサレ感が失われることは決して無いし、かといってうすっぺらい描写で終わってしまうこともない。
そのあたりをうそ臭い、物足りないと感じる人も多かろうと思いますが、むしろ僕はその見事なまでのチラぐあいの微妙さに感心して、素直に楽しんでます。

最近は竹本が「自分探しの旅」に出ているのだが、これがまた「どこでもいいからどこかにいきたい衝動」に駆られる人種の気持ちが、かなりよく描けていてすばらしい。
あくまでカッコつきの「自分探しの旅」なのだ。竹本は世間で言われているような「自分探し」感覚は持っていないようなのだが、客観的にはどうやらそのようにみられてしまっている。その感覚のギャップの描き方もまた見事だ。

話はそれるがこの漫画、いわゆるところの「自分探し」的態度や感覚を、主に森田や竹本を通して、かなり直裁に批判しているシーンがたびたび見られて、実に痛快なんだが、ヤングユー誌の読者的には反感を買っていないのかね?
他の漫画を見ていると「私のいるべき場所って本当にここでいいの?」的な悩みへの読者の共感、あるいは「私のいるべき場所を見つけて世間に認められて大活躍中です!」な人への羨望をテーマにしている漫画が人気あるようなんだが。