吉田戦車の古代人感覚

以前に「ユリイカ」「害虫」という2本の映画について

日常がいつのまにやら非日常に侵食され、非日常があたかも日常であるかのように現れる不思議な感覚が魅力
と書いたのだが、どうもこの感覚には他にも覚えがある。なんだったっけなーと思っていたのだが、昨日ふと思い出した。
吉田戦車の漫画だ。いまでもそうなんだけど、「ぷりぷり県」以前により顕著だ。

非日常と日常がツギハギになっているのではなく、レイヤーされていたり、アマルガム状態になっていたりして、あたかも当然のごとく、奇妙な非日常が語られていく。
昔の日本人にとっては、万物に神が宿っていたり、暗闇に妖怪がいるのはあまりにもあたりまえで、そのあたりまえを信じられないという我々現代人のほうを信じられないって感覚だったんだろうが、吉田戦車の(特に90年代中盤までの)漫画には、そのような古代人感覚がそのまま地続きになって描かれているような魅力が感じられることがよくある。

くすぐり様 (ジェッツコミックス)単行本単位で見たら、この「くすぐり様」が特徴的かな。…って再販されてないの?! 新装版を見かけた記憶があるんだけど…。「ひょうの道」「くもくん」「ぐるぐる円」「便所の神様」などがそんな感じかな。

若い山賊 (アクションコミックス)「若い山賊」に収録されている「徳育話材百選」シリーズは「担当編集者が神保町の古本屋で見つけてきた(中略)昭和28年に出版された、教師向けの道徳の本」が原作らしいのだが、実に不思議な空気感だ。どのあたりが道徳教育につながるのかイマイチわからんお話もあって(特に「せんせい さようなら」)その点も実に奇妙な味わいを醸し出している。

いじめてくん (ちくま文庫)「いじめてくん」シリーズの中の「鉄とトーフ」も印象的。この話は「徳育話材百選」よりも道徳教育向きであろう。キャラを変えたらそのまま絵本になりそう。奇妙でしかも笑えながら、しみじみとした味わいがある。

タイヤ (ちくま文庫)「タイヤ」という単行本の中の「川辺の家族」「木人の店」…。「川辺の家族」は最初に読んだときから好きだったんだが、ますます魅力が増した。吉田戦車的な奇妙な言語感覚が、不思議なまでに美しく叙情的に映えている。