ジョゼと虎と魚たち

友人からDVDを借りて見た。公式サイトはこちら。あらすじはこんな感じ。しかしこの文章、あらすじだってのに自分の主観を入れるなよ。

ジョゼと虎と魚たち(通常版) [DVD]

ジョゼと虎と魚たち(通常版) [DVD]

やろうと思えばいくらでもお涙ちょうだい物語に仕立て上げられるであろうモチーフを、ギリギリ一歩のところで「お涙」までには踏み込むものの「ちょうだい」までには行かない抑制に好感が持てる。
持てるのだけど、その演出方針の副作用か、人物像が表面的だ。あと一歩踏み込んで描いて欲しいところで踏み込んでくれないし、かといって状況がうまく俯瞰されているわけではないから、隔靴掻痒といいますか、じれったいといいますか。

特に「海の底」にいたジョゼ(池脇千鶴)が恒夫(妻夫木聡)との出会いによって、海面を知り(昼間に外に出る)、陸上を知り(乳母車を捨て恒夫におぶさる)、内陸を知る(恒夫と別れ電動車椅子を使う)過程の喜びの瑞々しさが効果的に伝わってこないのが実に物足りない。
一応、描く努力はしているようなのだけど、なんだか妙に駆け足で通り過ぎてしまうためか、演出がありきたりなためか、ジョゼの演技に対する恒夫の演技の受けが弱いせいか、表面だけなぞった印象で、瑞々しさがないのだよね。動物園の虎や海に行くシーンで顕著。

その瑞々しさが感じられないから、恒夫がジョゼに心惹かれる理由も伝わってこない。
これが一番致命的だ。

香苗(上野樹里)の描き方もまた物足りない。冒頭でノリコ(江口徳子)が「(香苗が福祉を志すと言っているのは)いかにもお嬢だよね」と語っているんだが、その時点で「お嬢」的な奉仕&偽善心(が悪意無くごちゃ混ぜになっている心情)をもっと突っ込んで描いておけば、後半部での香苗の人物像により深みが出たのに。
前半で「福祉を志す」香苗の人物像が明確ではないため、後半で香苗がジョゼに対して抱く複雑な嫉妬も空回りしてしまう。

この映画の白眉は、ジョゼの施設仲間で、ジョゼの「息子」である幸治(新井浩文)が、恒夫とジョゼが恒夫の実家に行くために愛車(ヤンキー仕様)を貸し出したあと、幸治自身でも説明のつかないやりどころのない衝動に駆られ、自分の愛車に「いてまうぞ、コラ」と蹴りを何発も入れるシーンだ。
人物が表面だけの存在ではなく、肉体があって血が流れている印象を持てたのは、唯一このシーンだけだった。

表面だけなぞった印象は、最後までずーっと続く。なんだか本当はあと2倍くらいある映画のダイジェスト版を見ているような印象だ。