シティ・オブ・ゴッド

ブラジルのストリートギャング映画と言うことで、こりゃー珍しいわと思ってDVDで借りたもの。公式サイトはこちら。あらすじはこんな感じ。

シティ・オブ・ゴッド DTSスペシャルエディション (初回限定2枚組) [DVD]

シティ・オブ・ゴッド DTSスペシャルエディション (初回限定2枚組) [DVD]

一番最初の、殺されて調理される直前、逃げ出した鶏をギャングたちが追いかける、これからのお話を予感させ象徴するシーンを見ただけでもう感心。えっらいスリリングでスピード感があって引きの強い映像。
この冒頭からずっと、映像には感心しっぱなしで観てました。
「神の街」の、乾ききった褐色の大地に立ち並ぶ同じく褐色の公営住宅や、美しい夕暮れのビーチや、ちっとも美しくないスラム街を美しく切り取るカメラや、光と闇が交錯する銃撃戦や…。
ものすごい殺伐としたお話で殺伐とした舞台を描いているのだけど、どのカットでポーズしても、きっと驚くほど「美しい」と感じちゃう画面だったろう。実際のところ、見事な編集だったのでポーズするのがもったいなくて、してないんだけど。

編集もまた良い。本編の話から、別人のエピソードに切り替わり、それがやがては同じシーンに視点を本編とは変えつつ戻り、本編に収斂していく複眼的な編集が多用されていたのだが、これが大変効果的だった。

お話的には、はじめの30分で結末が読めちゃう感じだし、ありがちな狂犬の嫉妬と孤独物語だったり、少年の成長物語だったり、憎しみの終わらない連鎖物語だったり、殺伐とした環境で生まれ育つ、殺人を屁とも思わない少年たちの自覚してない悲劇だったりと、わりとありがちシチュエーションの連発ではある。
ギャングたちの抗争も力任せなドンパチばかりで、まったく戦略的ではないから、そういう方面での楽しみ方も出来ない。
のだけど陳腐さは感じない。映像が見事だからってのもあるだろうけど、殺伐を殺伐として、否定も肯定もせずそのままポンと観客に放り投げているからだろう。
もちろんこの胸に深く残る、嫌な観劇後感で、制作側の描かんとする主張は伝わるのだけど、お話の中では制作側は何も否定しないし、何も肯定しない。すべては鑑賞者に委ねられている。

たぶんこの平和な日本に暮らしている我々のほとんどは、(おそらく制作側の意図どおりに)やりきれない嫌な思いを胸に抱きつつ、スピード感ある素晴らしい映像に見入ってしまう自分にちょっと罪悪感を感じちゃうんじゃないかと思うんだが、現地でリアルでこういう状況に置かれてる人たちって、この映画を見てどう感じるもんなんだろう。

上にリンクしたあらすじによると「実際にスラムに暮らす子供たちを集め、ワークショップという形で出演させた本作」らしいんだが、我々平和な日本人がこの映画から感じる「殺伐」感覚を、彼らと共有することは出来るんだろうか。
子供たち、みんな本当に見事な演技で、ラストの「殺したい奴をリストアップ」しているシーンなど、話題が「殺したい奴をリストアップ」じゃなければとてもほほえましい子供たちのじゃれあいで、あまりに無邪気で自然なだけに、むしろますます嫌な思いは募っていくばかりだ。

ところで、ブラジルの格闘家のインタビューとかでときどき話題になる「ブラジル男のステゴロタイマン美学」的なシーンは見事に一切無かったですねえ。それって本当のストリートギャングとかの話じゃなくて、わりと体育会系なアスリートチックな男たちの世界の話なんだろうか。いま冷静になって唐突に気になってしまった。

音楽もよいです。5.1をうまく生かして、嫌味なくさりげなくパーカッション類を後ろに回したり、コーラスを取り囲むように定位させたりしてます。どうやらお話しの舞台になっている時代の有名な曲(のリメイク?)らしいのだが、全然知らず。

効果音類はちょっと物足りないかも。特にアンビエント類であんまり細かい仕事をしていない感じ。なのでスラムの中でも、メインストリートにいるのか、裏通りにいるのか、潜んでいるのか、等などの状況が外国人である僕にはイマイチ伝わってこない。この点に力を入れれば、上述したお話の弱さをかなり補強できたのではないかと思うんだけど。
このような映画でのアンビエンス類は、無意識に観客の心象を操作するものだと思うので、コストのかけどころだと思うのだが。