5.1chとProLogic2ミックス

最近、ProLogic2ミックスをする機会があった。かなりキツいスケジュールだったのが残念だけど、それでもけっこうコツはいろいろつかめた感じ。先月、今月号のサンレコでは戸田誠司さんが、音楽でのサラウンド制作ことはじめを大変わかりやすく書いておられるのに刺激されて、僕も忘れないうちにちょっとメモ。

ひとまずProLogic2や2chステレオにダウンミックスする際の問題点などは置いといて、5.1mixだけに話題を絞る。
個人的には5.1だからといって、それほど難しくなったとは思わなかった。っていうかむしろある面では2chステレオより簡単だったりする。
音響エネルギーを前面に集中させなくてもよいというのが、なんといってもありがたい。
一番わかりやすいところでは、2chではBGMとアンビエンスがぶつかって汚い響きになっちゃうとき、そのぶつかる帯域がずれるようにEQなどしてあげる必要があったりするのだけど、アンビエンスを4chで取り巻くようにできるのでフレキシブルに対応できる。これはかなりありがたい。
音楽mixでも、無理に楽音をリアスピーカーにアサインしなくても、アーリーリフレクションやらリバーブやら微妙なディレイ飛ばしやらをリアに回すだけでも、ぜんぜん効果的になるんじゃないかなあ。

セリフにセンタースピーカーを使えるのもありがたい。ハードウェアセンターを使うと、大音量時の分離が全然違う。反面、環境の響きに人物を埋没させたいときは、センタースピーカーは使わないほうがよさそう。
音源をパンニングさせる際に、ProToolsのデフォルトではセンタースピーカーを経由させるようになっているんだが、これは劇場での再生を想定しているのだろう。左右のスピーカー間の距離が離れているため、センターも利用してつながりをよくしようという意図だろう。
我々コンシューマ屋の場合、スピーカー間隔が3m以上離れているってことは考えづらいので、SE移動時にセンターを経由させないほうがセリフの分離がよくなる(=例えば大音量下でのささやき声がよく通るなど)のでベターだと思う。
そういえば何かの映画で、通常セリフはセンタースピーカーで、モノローグはフロントとリア4chを均等に出して、ちょうど音場の中央に定位させるってのをやっていたなあ。あれは地味ながら大変効果的だった。

慣れないうちは音源移動のパンニング付けを、オートメーションを使ってProControlのジョイスティックで行っていたのだが、慣れたらパラメータ手書きでも普通にできるようになった。Front PositionとRear Positionを同期させるコマンドがあったらもっと能率上がったんだけどなあ。誰もが欲しがる機能だと思うから、もしかしたらどこかに隠されているのかも。


さてそれをProLogicエンコードするとなるとかなり事情が異なる。
後ろに回すつもりが無いものが勝手に回ってしまう。例えばBGMの逆位相成分が勝手に後ろに回ってしまうので、せっかくアンビエンスを後ろメインに置いて、BGMとの分離を良くしようと思っても意味がなくなってしまう。

また、リアに配分される音が増えれば増えるほど、特に後方での定位は大変あいまいになる。
例えば後方から前方に通り抜けるヘリなど、単体再生ではProLogic2でもバッチリの定位移動をしていても、BGMや後方アンビエンスが加わると、一気に定位移動感が薄れてしまう。
なので、あからさまに後方で移動する音源が発生するときは、その他の音源を前方に一時的に持っていく必要が生じる。これをさりげなく感じさせるのが難しい。っていうかめんどくさい。
例えば、後方で移動させる音源が発生する数秒前に、後方アンビエンスを数秒間かけて前方に移動(退避)させるとか、フェードアウトさせるとかの対策が必要になる。
このあたりの処理をこまめに行うと、ぜんぜんProLogic2再生時の印象が異なる…はずなのだけど、今回は時間に余裕が無かったので、ほんとうに「ここぞ」ってところでしかやれてないんだけど。


さらに2chダウンミックスされるとこれが全く事情が異なる。逆位相感がめちゃくちゃ気持ち悪くなる(許容度は個人差大きいと思う)こともあるし、位相が打ち消しあって、ある帯域がすこっと抜けたりコムフィルター通したみたいになったり、大変だ。
めちゃくちゃ気合入れて5.1mixして、ダウンミックスでひどい結果になると落胆がでかいだろう。コストに対するパフォーマンスが全く見合わないものになってしまう。

なので、特に日本ではコンシューマの半分以上はいまだ2chで聴いていると思うので、作業コストが上がるのを覚悟して2ch専用トラックを別mixして用意するか、逆位相成分を控えめにして、ここぞというところだけ強調する方針のどちらかに絞ったほうがいいんじゃないかと思う。
二兎を追うもの一兎を得ずだ。単にコストパフォーマンスの問題だけではない。仮にコストを無視してパフォーマンスだけ考えても、二兎を追うことによるメリットはほとんど無いだろう。