Uボート 最後の決断

立川で時間をつぶす必要が生じたので、前情報無く見た映画。
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以下ネタバレです。

お話の根本のところでどうしても合点が行かないので、どうしてもお話に感情移入できない。
Uボート艦長が、合衆国潜水艦乗組員の生存者全員を救助する動機が、全く語られないまま話が進行するので、見ている僕は戸惑ってしまうのだ。
戦時下に、敵国の軍人をわざわざ全員救助するメリットがいったいどこにあるのか?
しかもスペースにほとんど余裕がない、密閉された潜水艦だっていうのに。

合衆国の駆逐艦が補給地点で警戒している(もしかしたら補給艦を撃沈された?)ため、祖国ドイツに戻ることが難しくなってしまう。
その駆逐艦を魚雷で撃沈しようとするまさにそのとき、合衆国捕虜が反乱を起こし、魚雷はあらぬ方向に発射され、駆逐艦に潜水艦の存在を気づかせてしまう。
救出した合衆国乗組員から移された伝染病のせいで、Uボート乗組員の1/3は死亡してしまう。
このままではUボートは航行不能になってしまうので、U艦長は、捕虜の合衆国乗組員と協力して、合衆国領海まで移動して、投降をするという決断を下す。
Uボート乗組員は踏んだり蹴ったり。まさに捕虜は疫病神だ。

Uボート艦長は、航海中に、娘の通っている学校に爆撃され、生存者無しだったという知らせを受けている。しかし合衆国乗組員チーフに家族のことを聞かれた艦長は「3人の娘がいる」と答えるのみで、娘が爆撃で死亡したことは一言も触れない。
あんたなんでそんなにいい人なの? 敵に何か借りでもあるわけ? 不自然極まりない。

終盤になってようやくUボート艦長が語る。
ヒトラーからは艦長と副長だけを捕虜にしろ(=残りは見捨てろ)と命令されているのだが、全員の命を救うことが真の強さだと考えた。今回の件で部下の信頼を失ってしまったが、自分の考えが正しいことが分かった」
…いやヒューマニズムあふれる艦長ですね。
そのヒューマニズム思想が正しいとか誤りとかはさておき、戦時下の軍人の思想としては、きわめて異例であるのは誰もが認めるところだろう。
しかし艦長がそのような思想を持つに至った背景が、映画中では全く語られていないので、実に不自然だ。説得力がない。

制作者が反戦思想を主張したいのは分かる。殺しあうよりもお互いに生き残る道を模索しようという主張は正しいし立派だ。
しかしUボート艦長の行動のいちいちが、軍人らしからぬ個人的な思想に基づいているだけで、必然性とリアリティが感じられない。その必然性の無さが気にならない(もしくは積極的に無視したい)人にとっては、感動のお話なのかもしれないが、気になる人にとってはお話の根底があやふやであいまいになってしまっているので、すべてが嘘臭くしか感じられない。
これがこの映画の最大の問題点だ。

音楽は、いかにもな「感動させます泣かせます」系で、感動したい泣きたいという気持ちで見ている人にとってはよい効果をあげていたのではないかなと思う。
僕はこの音楽のおかげで、ますます醒めていったのだけど。

効果音は劇場のせいかもしれないが、アンビエンス系が実に物足りない。潜水艦という狭い空間にいる印象が伝わってこない。潜水艦というものが、世界最狭の社会組織であることを印象付けるためには、非常に重要だと思うんだがなあ。