風の中の居場所

オートバイで高速走行していると、ゴロゴロした空気の塊に体が転がされているように感じることが良くある。90キロくらいまでは「風に吹かれる」って感覚なんだが、それを越えると「風を掻き分ける」という感覚に変わっていく。向かい風なら特に。空気の塊に自分が拒絶されているような感じだ。
ここで体を硬直させて、オラどけどけという、風に抗う態度をとってはいけない。風に敵対してはいけない。身体の力をできるだけフニャっと抜いて高速走行していると、体のどこにどの程度の力を入れれば、最小限の力で風とバランスが取れるのかがわかってくる。
背中、腰、肘、肩、首、などと、じわじわと自分の体をアジャストしていくと、いつしか「風に包まれる」という感覚に変わっていく。
空気の中に自分の身体の鋳型ができて、そのなかにスッポリ収まっているような心地よい気分だ。風に自分の居場所を認めてもらったような、心地よい気分だ。
一度、風の中の自分の居場所が定まると、ある程度スピードを上げようが、ある程度身体の姿勢を変えようが、風に対しての自分の違和感はたいして感じないないものだ。もちろん、あまりにもひどい向かい風や横風だったり、あまりにもスピードを上げたりしたら、また話は別なんだけど。
オートバイに乗り始めの頃は、これらの動作を意識することができずに、無意識に行っていた。走り始めてから1時間くらい経つと、いつのまにか風がやさしくなっているのに気づき、あれ、追い風にでもなったのかなと思って高速道路の吹流しを見ると、特に出発時とは何も変わっていないので、不思議に思っていたのだった。
ハイパワー、大トルクのバイクなら、風を強制的に切り裂いて突進することができるのかな? 免許を取って以来、まともに乗ったバイクは2スト単気筒250cc以下のものしかないので、そこのところはなんともいえない。