モーターサイクルレースと無線通信

トラクションコントロールや、電子制御のバックトルクリミッターや、インテリジェントなフューエルインジェクションが導入されたりと、四輪ほどではないものの年々ハイテク化が進んでいるMotoGP界なのだが、考えてみれば、いまだにライダーとピットとのコミュニケーションは、サインボードに頼っているのいうのは不思議な話だ。

実際、第3戦上海で、オリビエ・ジャックが2位に浮上し、トップ独走のロッシを脅威の追撃を見せている時に、"OJ"という文字を用意していなかったゴロワーズヤマハは、サインボードに"O"とだけ表示させていたので(←数字のゼロを使ったのか?)、後方の状況が分からないロッシは、ゴール後に「まさかオリビエが追い上げてきているとは予想していなかったので、てっきり中国人ライダーが追い上げてきたのかと思ったよ!」などと笑い話にしていたくらいだ。

やろうと思えばいますぐにでも無線は導入できるだろう。無線機はツナギの背中のところについている、脊椎保護兼整流用のコブに入れられそうだし。導入しないのは、モーターサイクルレース関係者の伝統というか美学というか、そういったもののためなのかな?
合理的に考えれば、どう考えたって無線を使った方が有利なのに。レギュレーションで無線は使用禁止になっているのかな? 今検索した限りではそういう訳ではないようだったけど。
どちらにしろ、ライダーやチーム側から「無線を使いたい」という要望をが出ているという話を聞いた記憶がない。

四輪では、無線と通じて、前後とのタイム差どころか、後方の状況や前方のトラブル情報などを、逐一ドライバーに無線連絡しているそうだ。アメリカのオーバルレースでは、スポッターというそれ用の専門職まであるらしい。チームがドライバーのもう一つの眼になっているわけだ。
そのようなチーム総力戦というのも、それはそれで面白い。自転車レースなどはその最たるものだ。
しかしまあなんというか、善し悪しの問題じゃなくて、好みの問題で、やっぱり僕はこの旧態依然としたコミュニケーション手段を支持したい。無線を使わないことによって、よりライダー同士のピュアなバトルを楽しみたい。いまだにモーターサイクルレースに無線が導入されないのは、単純にそういう指向の人間が集まっているから、ってことなのかな。

ちょっと想像してみよう。無線によってセテが迫ってくるのを知ったロッシ、突き放すべく必死でスパートをかける。そこで「セテのリアはもう終わりだ。これ以上ペースが上がるとは思えない。シュアに走ればそのままチェッカーだ」と無線連絡が入り、ロッシはクルージングモード。
...やっぱ違和感おおきいよね。合理的に考えたら、そのように無線を活用すべきだってことはわかるんだけど、なんなんだろうこの違和感は。こんなふうになったらさびしいよ。