TAXI NY

気分をスカッとさせたいのでカーアクション物を観ようではないかと考え、DVDで借りてきた。パッケージによれば、リュック・ベンソン版の"TAXY"初代のリメイクらしい。このシリーズ、新しくなるにつれ、カーアクションがつまらなくなっている印象があり、特に"TAXY 3"はかなりガックリな印象であった。

公式サイトはこちら。僕の嫌いなFlashサイトだ。

幸い、初代を見たのはだいぶ前なので、ストーリーをかなり忘れていて、新鮮に楽しめました。

冒頭でMTBに乗ったバイシクルメッセンジャーが、スタントをバシバシとキメていて、うおーカッコいいではないですか! と思っていたのだが、そのメッセンジャーが事務所に戻って自転車を降りると、それはあまりにも先ほどの見事なスタントとは似つかわしくない、ふくよかすぎる体格の女性であった。
その女性が主演のベル役のクイーン・ラティファだ。バイシクルメッセンジャーをしながら個人タクシー開業資金を溜めていて、メッセンジャー界では最速のライダーだと言う設定であったのだ。…誰もがツッコみたいところであろうが我慢することにする。

このクイーン・ラティファ、ハマリ役であるのだけど、演技が平板、単調だ。脚本の時点で、演技が平板であることを既に想定していたのか、あまり粗が出ないように気を使われているようなんだけど、それでもそこかしこに底の浅さが見えてしまう。
その平板さは、ラティファがラッパーであるということに敬意を表して音楽で例えれば、ベロシティ100固定でピアノを8分で連打しているような印象なのだ。ほんとうのピアノの演奏としては底が浅いし不自然だ。しかしベロシティ100固定の平板さを、逆に生かす音楽性というのも確かにある。
そんなように、この脚本・演出でも、ラティファがうまく「ハマる」ポイントだけをうまいこと抽出しているような印象。ラティファの演技の平板さをマイナスに感じさせないような指向の演出をしているっぽい。感情の表現が重要なシーンでは、かならずデフォルメされたキャラとの絡みとなっていて、ラティファの平板さが逆にコントラストとなっていたりする。

以下、オリジナル版を見たのがかなり以前のことなので、比較して書いている内容は、ちょっと記憶が怪しいです。
さてオリジナル版では、主演のタクシーはプジョー406で、固めた足回りを生かしてクイックでスピーディなカーアクションを繰り広げていたのだが、さすがアメリカでのリメイクだけあって、この"NY"版では、フォードのクラウンビクトリアという、メチャクチャ鈍重な印象の、ザ・アメ車!って感じの車になっとる。いまどきのあちらの若者は、GT-RとかランエボとかRX-7に憧れているもんだと思うんだが、いくらタクシーとはいえ、いいのかこのチョイス。
鈍重でヘナヘナした足回りのパトカーを、大仰に強引に振り回す、昔ながらのアメリカン刑事ドラマカーアクションを指向したのだろうか。
そうだとするならば、カメラワークで損をしている印象。大揺れに揺れるボディを強引に振り回しているという印象があまり伝わってこないのだ。

デカい鈍重な車がコーナーで大きくはらみ、ギリギリのところでカウンターを当てて体勢を立て直す…というダイナミズムがあまり感じられない。カメラがコーナーのアウト側から低めの視点で狙っていることが多いので、車のライン取り、挙動変化がイマイチ見えてこないのだ。
カウンターを当てて体勢を立て直した時点で、車が真正面になったり真後ろになったりする位置ならば、コーナリングのダイナミズムが伝わって良いのではと思うんだが。伝統的なアメリカンカーアクションでは、そういうカメラポジションが多かったような記憶がある。
アウト側から狙うのであれば、パースを強調すべく広角レンズで、大きくはらんだ車のテールがカメラにぐわっとギリギリ近づくスリルを見せるとか。

オリジナル版では、プジョー406の特性に合わせて、ダイナミズムよりも、アジリティとスピード感を強調することを重視してカーアクションを演出していたと思うのだが、この鈍重な印象の動きをするアメ車で同様に演出しても中途半端になるだけなのでは。
見せ所のハイウェイ逆走シーンで、迫ってくる車を、デカい車体をグワっグワっと揺らしながらスラロームして避けるシーンが見られるのかと思いきや、迫ってくる車のほうが避けることのほうが多くて、どうも物足りない。車の動きのギリギリ感が希薄なので、いまいちスリリングではないのです。

とはいえ、全体で見れば、一度も退屈せずに楽しんで観られました。最後のオチが全く同じだったのはリメイクだからしょうがないのかな…。