AILA / 川内倫子

写真集はめったに買わない僕なのだが、見本誌が用意されている本屋で立ち読みして、辛抱たまらず即買い込んでしまった。以来2週間あまり枕元に置いて、パラパラと拾い見したり通し見したりしてます。宝物のような写真集です。
作者の日記はこちら。
http://www.foiltokyo.com/rinko/rinkodiary.html

AILA(アイーラ)―川内倫子写真集

AILA(アイーラ)―川内倫子写真集

この写真集にテーマがあるとすれば、おそらく「死生」…といったものなのだろうが、作家の死生観を写した写真というより、死生そのものに作家が、鏡像のように映りこんでいる写真のように思える。
さあ死生観を表現するわよ、パシャッ! ハイこれが私の考える死生観です、と写真を撮っているのではなく、この世にあまねく存在するさまざまな死生を、まっすぐ見据えてまっすぐ撮影しまっすぐプリントした結果、その写真に作家の死生観がいやおうなしに映ってしまっている。目的と手段の関係がまっすぐでまっとうなんだ。

僕はグラフィックに関して素人だし、この作家について評論とかほとんど読んでいないので、玄人の意見としてはどうなのかわからないけど、なんでこんなに完璧なのと思ってしまうほど完璧な画面構成で、その完璧さが威圧感にならない、やわらかく豊かで美しいトーン。
そしてなにより、とくに接写もので多く見られる、紙のように薄い被写界深度(ピントの合う距離)。卵からいまにも孵らんとする雛の羽にビシッとフォーカスされて、卵の殻はすでにアウトフォーカス状態だ。写真の奥から手前まで揺れ動く視線をスッと収斂させていくピント。
これは、生々しい部分をよりソフトに印象付けるためでもあるようだ。例えば締められた鶏の目から、嘴から滴り落ちようとする血までピントが合っているかいないかで(たぶん数センチの差だろう)、この写真の印象は、全く異なったものとなるだろう。

凛とした構成、豊かなトーン、3次元的に視線を揺れ動かすピント。そしてなにより被写体を見つめる独特な目。
写真スタイルとして、この川内倫子調を真似ることはできても、この目は真似ようったって真似られるものじゃないんじゃないか。根本的に、目が常人とは異なっている。
ハチミツとクローバー」で「はぐちゃんの目を通して世界を見たらどんなものだろう」みたいなセリフがあったのと思うのだが(うろ覚え)、そんな感じで、川内倫子の目を通して世界を見たら、こうなってしまっているんだ…という、静かな衝撃を、ページをめくるたびに受けてしまう。

これ以外の写真集は、写真雑誌に数枚ほど抄録されていたものしかしらないのだけど、どうもこの"AILA"は、ちょっと他のものとは異質なんじゃないかという予感がする。どうなんだろ? 毎月一冊ずつ、この作家の写真集を買い込んでいこうと思う。そして写真展があったらぜひ観たい。いまイタリアでやってるらしいが…。

(8/11追記)
わーいこんなところにWebギャラリーがあったよ。
http://www.cmp.ucr.edu/photography/kawauchi/gallery.htm
しかしこれを見て思うのだが、ページ左右の写真の対比でより印象が強烈になっていたのだなあ。例えば
http://www.cmp.ucr.edu/photography/kawauchi/gallery002.htm
これは写真集では隣に枯れたひまわりの写真があって、ひまわりの種の部分とのパターン的な相似がお互いに印象を高めあっていた。