エニグマ(バレ)

公開当時には忙しくて見逃していた映画。DVDが出ていたのでレンタルで見る。
小説が原作なんだが、そちらはおそらく読んだことが無いはず…と、なんだか記憶が怪しいのは、映画を見る前から暗号機「エニグマ」のことは知っていたし、味方の○○を○○にして、暗号復号の「突破口」を得たって話の流れも知っていたのだけど、小説という形式では読んでいないはずだ。
なんでこんな記憶力無いんだろう。数年前に、ロケット戦闘機Me163に興味があっていろいろ調べていた過程で、なにかの本で読んだような気がするのだが…。
そのとき読んだ本の印象から、刻々と迫る期限と戦う解読チームは、いかにしてエニグマを解読するか?! みたいな内容を期待していたのだが、そういう期待に答える映画ではないです。かなり拍子抜けでした。

エニグマ [DVD]

エニグマ [DVD]

暗号解読自体については、わりとさらっと流されてしまう。その代わり、ドイツ軍の暗号変更と同時期に姿を消した、解読者の元恋人クレア…という、ラブ&サスペンス要素が加わっている。
いや「さらっと」と感じたのは、僕がエニグマの解読について予備知識があったからかもしれない。たぶん予備知識がない人にとっては、ちょっとわかりづらかったんじゃないかなあ。一応ひととおりの説明はなされているのだけど、映画内でのその説明の「聞き役」が明確でないため、観客にも説明が行き渡りきれないような印象。

というか、映画全体的に、説明が行き渡っていないような。主人公トムの行動の起点と終点が明確でないのだ。トムはいつのまにやら謎解き行動を開始している。本業である暗号解読をほっぽりだして、クレア失踪の謎を追及し始めているとしか思えなかったりする。
そしてそのトムの行動がどのような結果・反響を引き起こしたのかは映画内では曖昧にスルーされる。トムの行動中は描写されていても、その行動の起点と終点が曖昧でうやむやで、観客の頭の中にはクエスチョンマークが無駄に溜まっていく。

音楽もまた曖昧な印象を強調してしまっている。ストーリーの一番の山場である、一刻も早く暗号を解読し、味方の船団を救わなければならない一連のシーンなど特にそうだ。
味方の船団を発見したことを報告する敵の暗号通信を待ち、それを突破口にして敵の暗号を解読した…わけなので、言うなれば暗号解読の手がかりを得るために、味方を囮にしたというわけなので、解読チームにかかるプレッシャーは相当なものであったはずだ。
海上で生身で戦っている兵士と同様に、解読チームもまさしく「戦争している」わけなのだが、観客の気持ちを音楽が乗せていってくれない。

生々しい半身火傷の跡が残る、解読チームに派遣された海軍軍人は、その負傷で前線から戻され地上勤務になったのだろう。あくまでも前線兵士の立場から発言し、要請する。しかし一刻も早く解読せよといくら要請されたところで、設計図に従い組み立てればいい工場じゃないんだから、できないときにはどうしたってできないものだ。
…という反発を匂わせながらも、解読者チームの面々は、前線を潜り抜けてきた海軍軍人に敬意を払っている。暗号解読の一番の功労者に、と所長からトムに渡された酒を、それまで毅然と振舞っていたがとうとう作戦台に突っ伏して爆睡している海軍軍人の傍らに置くトム。ここがこの映画でほとんど唯一印象に残ったシーンであった。
反面、所長は屁にもならない激励でチームを苛立たせる。修羅場を通っていない所長と海軍軍人とのコントラストが鮮やかだ。修羅場を通っていないこと自体が問題なんじゃなくて、通ってないなら通ってないなりの態度とか立ち位置とかがあるってもんだよね。