「アクセルとブレーキを同時に踏む」

18日の話題の、微妙に続き

よくスポーツ分野で、身体に無駄な力が入っていて、動きがスムーズでないことの譬えに「アクセルとブレーキを同時に踏んでいるようなもの」というのが使われたりする。
これは譬えとしてわかりやすく、戒めの表現として捉えるのなら問題は無いのだが、現実の車やバイクの操作上では「アクセルとブレーキを同時に」使うのが有効なことはしばしばある。

アクセルとブレーキを同時に使うことを「無駄な力」と考えるのは、アクセルとブレーキ操作によって影響を受けるのが「速度」という1軸だけ、という想定に基づいているからだろう。
その想定に基づけば、80%の力を出すのに、100%のアクセルからマイナス20%のブレーキを用いるというのは、いかにも無駄だろう。

しかし実際には、話はそう単純ではない。アクセルオンして加速すれば車体は後傾するし、定速状態になれば重心は静止時に近づくし、アクセルオフしてエンジンブレーキすれば車体は前傾する。ほとんどの車は前輪のほうがブレーキ効力が大きいため、ブレーキすれば前傾する。
バイクの場合は前後ブレーキを別制御できるので、もっと積極的に操作できる。前ブレーキをかければ前傾し、後ブレーキをかければ後傾する。その傾きによって重心位置が変化する。サスペンションを積極的に動かして、前後輪を路面に押し付けることができる。つまり速度だけではなく、重心の移動量という軸が発生する。

速度という軸からだけ見れば、明らかに無駄なアクセルとブレーキの同時操作なのだが、重心の移動を利用することによって、その無駄を上回るメリットが発生することもありえるのだ。
例えば、下り傾斜のヘアピンで、アクセルを少し開けてリアにトラクションを与え続け、車体を安定させつつ、かといってそのままではスピードオーバーしてしまうので、リアブレーキを引きずって、リアに荷重を移動し下り坂に対応しつつ、速度を調整する…といった具合だ。
直4などのクランク軸が長いエンジンの場合は、ジャイロ効果も出てくるのだが、僕は2スト単気筒しかまともに乗ったことがないので、実感として語ることはできない。
ともあれ、アクセル全閉で時速30kmで曲がるのと、アクセル小開でリアブレーキを引きずりつつ時速30kmで曲がるのとでは、同じ速度でも安定感が別物となる。

また、アクセル開度=エンジン回転数=速度ではないことから、アクセルとブレーキを同時操作することによって、より積極的にエンジン回転数という軸を利用することができる。
例えば、速度調整をしたいのだが、かといってターボの過給圧も下げたくない場合、過給圧を下げない程度のアクセルを与えつつ、左足ブレーキで速度を調整したりする。
…らしいのだが、僕はNAのオートマ車しかまともに乗ったことがないので、実感として語ることはできない。

この「アクセルとブレーキを同時に踏んでいるようなもの」という譬えを使うことを非難するつもりはまったく無いのだけどね。