しらびそ峠〜御池山クレーター〜上村下栗の里

伊那市を9時に出発。しかしなんだかエンジンの調子がおかしい。アイドリングが安定しない。昨夜はあんなに調子よかったのに。エンジンが暖まるのを待つ。

いままで通ったことのない道、県道18号伊那生田飯田線を通って南下する。例によって、クリックするとでかい写真が開くものもあります。


田圃の中を通って行く特徴のない道だが、車どおりがほぼ無いので、快調に距離が稼げる…はずだったが、エンジンが暖まった頃合いになっても、まだアイドリング〜微開付近で不安定な感じ。
以前、SDRのキャブに燃料コックからゴミが入り込んでしまった時の症状とかなり似ている。梅雨の間にキャブオーバーホールせんとあかんなと思う。ちょっと憂鬱になる。



県道210号西伊那線に移る。国道152と153の間を通って行く、百々目木川(「どどめきがわ」と読むそうだ)沿いの、渓流と木漏れ日の美しい、気分のよい道だ。


エンジンは回転が安定しなくなっただけでなく、吹け上がりも鈍くなってきた。そういえば僕の時計には気圧計がついていたのだった。まさしくこういうとき、吹け上がりが鈍くなる気圧をチェックしようではないかと思って買ったのだった。すっかり忘れていた。


888ヘクトパスカルであった。いまググってみたところ、台風の中心気圧が950hPaくらいらしい。ということは天気自体は穏やかな曇天だが、気圧的には台風以下なわけだ。気温が28.8度と表示されてますが、この気温表示は、体温にかなり影響されてるみたいで、全然参考になりません。

折草峠を越えてからは、四徳川に沿って南下する道になる。こちら側はキャンプ場があったりして、すこし開けている雰囲気だ。


10時半頃に終点の小渋湖に到着。あまり特徴のないダム湖だ。釣り人が数人いるだけで、閑散としている。



ここからはあまり面白そうな未通過の道がなかったので、素直に国道152に移る。中央構造線沿いの谷間を走るこの国道は、狭すぎず、広すぎずの谷間感がちょうどよく、単に移動するだけで風景にバリエーションも多く、バイクに乗り始めのころからお気に入りなのだ。

すると「城の腰露頭」という看板が目に入った。中央構造線で東日本と西日本を分ける地層が、地表に露出しているポイントだ。詳細はこちら一昨年には安康露頭を見に行ったので、今回はこちらに行く。
かなりきつい坂を上って行くと、一軒のお宅がある。おそらくこの露頭のある山を所有している方なのかな? 露頭の見学感想ノートなどが軒先に置かれている。それはよいのだが、謎アイテムもそのノートとともに置かれていた。

「パアの出るここだけの石です もちかえり元気になって下さい」
「ワ」の文字が小さくなっているところが、なんだか妙に本格的な発音の英語っぽい。この謎の石と、見事なまつぼっくり(?)を提供していただけているのだ。いったいどういう理屈でパアが生じるのか知りたいところなのだが、どこにもインフォメーションは無かった。


まずは巨大転石に到達する。この石は由来が記録されているようで「明治時代に、夜半に大音響を発して2つに割れた」とのことだった。看板を見ると、なんと石の上に登れるらしい。ここをどうやって? ひとまず通路を通って裏側に回ってみると、ちょうどよくこの石の頂上が安定した凹みを持ったスペースになっていた。


特に足場が不安定なことも無く、普通に登れる。この岩の上には、見慣れない、ちょっと独特なピンク色の花が咲いていた。


さて露頭まで登るのが、なまった体には一苦労だった。到着すると、周囲の土色とは異質な緑がかった岩が露出していて、これが城の腰露頭だった。


以前に見た安康露頭とは違い、素人目にはその特別さがピンとこない。これで中央構造線だと判断できるって、学者ってすげえな。



さて本日のメインイベント、しらびそへと向かう。国道152はまだ開通しておらず、地蔵峠で分断されていて、蛇洞林道を迂回することになる。この林道からさらに分岐する林道へ向かうと、しらびそ高原があるのだ。今回のテーマどおりに、国道152周辺の、いままで通ったことの無い道だ。
地図はこちら。1/75000では表示されないような道だが、整備されていて道幅も普通で、普通にご家族で走れます。
頂上にレストランのある山荘があるらしいので、ここで食事をして、その後に後述する御池山隕石クレーター跡を経由して、また国道152に戻ろうと計画しているのだ。
標高が上がり気圧が下がるににつれ、ますますふけ上がりが悪くなっていく。天気も標高が上がるにつれてどんよりと曇ってくる。もちろんキャブレターの構造上仕方が無い現象なのだが、ノーマルチャンバーではこれほど気圧の変化にセンシティブではなかった。やっぱりツーリングライダーにはノーマルのほうが扱いよい気がする。戻そうかな。
ときどき気圧をチェックすると、どうも920hPaを下回ると、突然に反応が鈍くなるようだ。標高1600を超え、気圧が850を下回ると、ファミリーカーより加速が鈍くなるほどのパワーの落ち込みようだ。峠への登り傾斜道だということもあり、ローギアで高回転をキープして、ようやくファミリーカーに追いついて走れる。かなり大音量になってしまい、ちょっと顰蹙ものだ。


とうとうしらびそ峠に到着した。標高1833mで、気圧は810hPaだ。


昨年秋に井川雨畑林道を通ったとき、標高2013mの峠でも、これほどひどいパワーの落ち込みではなかったのだが。バイクの調子が悪いか、今日は特別に気圧が低いか、どちらかだな。


しらびそ山荘に到着。さきほどファミリーカーが列を成していたので、混雑していたらイヤだなあと思っていたのだが、それほどでもなくてほっとした。とにかく腹が減ってしかたがないので、焼肉の匂いに誘われてレストランに入り、マトンのジンギスカンを頼む。
マトン特有のものと思っていた、あの匂いがほとんど感じられず、ちょっと寂しい。しかし癖が無いのでガツガツ食べられる。片面だけカリっと焼けるくらいにするとうまい。これでかなりパワーがチャージされた感じだ。
腹が満ちたところで、山荘周辺を散策する。しかしどんよりと曇っていて展望は開けず、残念だ。

 



しらびそ山荘から国道152へと向かう道の途中、御池山クレーターと呼ばれる、2003年9月に確認された、隕石衝突のクレーターがある。ツーリングマップルでこれを見て、これはぜひ行きたいと思っていたのだ。詳しいことはなにも調べないまま向かった。地図はこのあたり。
僕の想像では、道路工事か何かで林を切り開いていったら、平原に数10mのクレーターがあった!みたいなものを思っていたのだが、いやいやそんな小さいレベルのものではなかった。直径45mの隕石が落下して、直径900mのクレーターが空いたとのことだ。詳細はこちら当時のニュースはこちら。
スケールが大きいのはよいのだが、あまりにも大きすぎて、どこがクレーターなのかよくわからない。

 

長年の侵食で、パッと見には普通の谷になってしまっている。それは想像とは違ってガッカリだったのだが、直径45mの隕石ってすげえな。ググってみたところ、近年に、ロシアで似たような規模の隕石衝突があったそうだ。
・巨大隕石がシベリアに落下した
・地球にぶつかる小惑星たち
「約100平方kmの樹木が焼けこげるなどしました」らしい。
このクレーター地域を通り抜けたあたりから天気が良くなってきて、暑いくらいになってきた。



国道152に向かう道を外れ、これもツーリングマップルで「日本のチロル村と呼ばれる 急斜面に集落(下栗村)が広がる」との記述があり、行きたいと思っていた、長野県上村下栗の里に向かう。行政的には上村であって、下栗は正確には地名のようだ。こちらが上村の公式ページかな地図はこちら。
まずは開けた展望を持つロッジがお出迎え。蕎麦屋もあったのだが、2時間近く前に食べたジンギスカンで、まだ腹いっぱいだったので、泣く泣く諦める。蕎麦も名産の地らしいので、当然地元の蕎麦を使っていると思うんだが。
さてここから下っていくとすごい。急斜面のつづら折りに村が張り付いている。地図で言うとここか

 

 

ツーリングマップルの縮尺では荒すぎて、自分がどこにいるのかわからない。とにかくこのつづら折りを下っていくと国道152に向かえるらしい。僕は高所恐怖症ではないのだけど、それでも道路沿いにバイクを止めて撮影していると、股間がキュッと引き締まってしまう。

 



国道152に戻り、南下する。今日はいろんな道をバリエーション豊かに楽しめて面白かった。15時になったことだし、そろそろ帰宅を考えることにする。
今まで通ったことの無い国道418で恵那に向かい、中央道経由が良いのではなかろうかと考える。国道418は、酷道として有名らしいし。今回は、延々と続くしつこいクネクネ道は味わえていないので、ここは期待できるかも、と思ったのだ。
それに走行距離が100kmを超えたので、そろそろ給油したい。僕のバイクは180kmほどでガス欠になるので。国道152を南下すると、すぐに兵越林道に入るため、しばらく給油ができなさそうだ。
そんなわけでこのポイントで国道418に移る。



天気が良くなったは良いが、かなり汗をかいたので、温泉があったらいいな…などとのんびりと思っているうちに、エンジンが、ブスブスッと停止してしまった。
あー、しらびそ峠越えで、空気が薄い中でアクセル開けたからカブったかな、と思い、ブラグを外す。たしかにカブリ気味だが致命的なほどではない。セルを回すと火花も飛んでいる。


とりあえず新品に交換する。新品の火花チェックOK。しかしそれでもエンジンはかからない。気楽に考えていたのだが、だんだん焦ってきた。
ではエア吸入はどうだろう。エアクリーナーは汚れていたが、少なくとも致命的なほどではない。とりあえず手で落とせる汚れは全部落とす。


じゃあまさかと思うが、ガソリンが送られていないってわけ? 燃料コックからキャブへと向かうパイプを外し、コックを開くと、燃料は一滴も出てこない。


えーなんで?まだ100kmちょっとしか走ってないのにガス欠?前回の給油ではちゃんと満タンになっているのをこの目で見たのに。謎過ぎる。

ガススタンドを探さなければならない。いままで来た道のガススタンドはどこも営業していなかったのは確認済みだ。国道152は前述のとおり、林道に入るので無理。残るは国道418を、このまま10kmほど向かうと、天龍村の役場と平岡駅のあるところがある。役場があるくらいのところなら、営業しているガススタンドがある可能性大だ。最悪なかったとしても、平岡駅から飯田線に乗れる。
そうすれば、そのまま東京に帰って、次の週末にガソリン携行缶を持って電車で平岡まで行くという手もある。交番とか役場にバイクを置かせてもらうように交渉して…。あるいは、前回に国道152を南下したときには、水窪のガススタンドは日曜でも営業していたので、そこでガソリンと携行缶をゲットできれば、今日中に帰れるか…。でも電車は1時間に1本程度だろうし、もし営業していなかったら大失敗だ、リスクでかいな…。などと考えた。

というわけで、15時50分、とにかくは平岡駅に向かって、根性でバイクを押し始めた。地図で見る分には、アップダウンが4箇所くらいあるらしい。平地で10kmでもつらいのに…。途中に農協とかがあったら、ガソリンを分けてもらえるかもしれないのだけど…。
一つ目の登りがすでにキツい。数10m押すと、もう息が切れてしまう。押している時間と休憩時間が同じくらいだ。
そうこうしていると、対向車線から向かってきた、軽トラのおじさんが話しかけてきた。ガス欠だと答えると「平岡まであと10kmはガススタンドないよ。あってもやってるかなあ」と予想どおりの答えで、やっぱりかとガックリしてしまう。とりあえず平岡まで行くのを試して、体力的に無理そうだったらJAFに出張してもらう(会員ではないので数万円かかるはず)ことにした。
汗をダラダラ流しながら、なんとか一つ目の登りが終わると、しばらく下りが続いている。1kmくらい惰性で下っていく。

下りが終わって平坦になり、橋が見えてきたところ、さきほどのおじさんが追い抜いていって、「ガソリン持ってる人見つけたよ!」と声を掛けられる。これぞまさしく天の助け。おじさんの軽トラに乗せてもらう。「この近くの家の人に聞いてみたら、携行缶で20リットルあるっていうから、いくら高くてもかまわないから買うって言っておいたよ!」と笑っている。いや実際、市価の2倍でもいいくらいだ。
いままで考えもしなかったのだが、農家だったら、農機用に、自宅でガソリンをキープしているのはありえる話だ。とはいっても、こういう親切な方に出会えないと、さすがにいきなり飛び込んで交渉するのは至難というものだろう。


国道418から恵那に向かう計画だったが、状況がこうなったら話は変わる。
謎の悪燃費にまた見舞われたとすると、少しでも市街地に近くてレッカー車の到着が早そうな、国道152号を南下した方がよい。それに中央道だと標高が高いので、それも念のため避けたい。
そんなわけで、国道152から一番近い磐田ICへのおすすめコースをおじさんに教えてもらった。
分けていただいたガソリンは、やはりちょっと劣化しているのか、吹け上がりがバラつく感じ。できれば早くガススタンドで新品を入れたい。



分断されている国道152を繋ぐ、兵越林道を峠越えしたところ、謎の看板が立っているのに気づいた。

「告!!
この標識国盗り綱引合戦に於て定め国境である
行政の境に非ず
国盗り綱引合戦?行政の境に非ず?一体何のことだ?
ググってみたところ、昭和62年から続いている行事で「長野県は南信濃村静岡県水窪町の両商工会の青年部から各々十五名の精鋭が選出され、三本勝負を行なって勝った方が1メートル、相手側に「国境」を広げることができる」のだそうだ。
兵越峠から遠州灘までの直線距離で計算すると、信州軍が連勝を続ければ、六万五千年後に太平洋が信州にやってくることになります。
少なくとも、九万連敗して遠州軍に諏訪湖を盗られてしまう事態だけは避けてもらいたいというのが、信州人のいつわらざる願いでしょう。
・切なる祈りをユーモアに託して真剣勝負 峠の国盗り綱引き合戦
・現在までの戦績(遠州軍の3メートル負け)

兵越林道と国道152の分岐点に至る。国道152には草木トンネルという、125cc以下のバイクは通行禁止のトンネルがあるのだ。いままで何の疑問も無く、このトンネルを通っていたのだが、今回のツーリングのテーマを考えれば、いままで通ったことの無い、水窪ダムに向かう旧道を走ることにする。点在する集落を繋ぐ、草木川水窪川沿いの道だ。

 

 

 

 

交通はほとんど無い。車にとっては狭い道だが、バイクにとっては問題なし。今度から急ぎで無ければこちらの道を選ぶことにしよう。
水窪湖方面にも寄り道したかったのだが、もう18時を過ぎてしまっているので、今度の機会に回す。

そろそろガソリンを分けていただいてから、走行距離が100kmに近づいている。先ほどの謎のガス欠を考えると不安になってくる。前回は日曜でも水窪市街のガススタンドは2軒営業していたので、ここで確実に給油しようと思っていた。
水窪市に到達したが、なぜか今日は2軒とも営業していなかった。だんだん気持ちが焦ってくる。そろそろ腹が減ってきているし、温泉にも入りたい頃合なのだが、ガススタンドがあったとしても仮に19時閉店とかだったら大変だ。休憩を取らずに、薄暗くなった天竜川沿いに国道152を南下する。

 

そして数10km走って、ようやく天竜市でガソリンスタンドを見つけた。時間は19時2分。ちょうど電気を消して、店じまいの真っ最中であった。大急ぎで飛び込むと、領収書は出ないけど給油できます、とのことでラッキーだ。休憩しないでおいてよかった。読みがあたった。新品のガソリンを入れたら、エンジン音の粒立ちがあからさまに細かくなり、スムーズに回るようになった。
ガソリンの不安は解消したことだし、温泉と食事(できれば蕎麦)にありつきたいと思っていたのだが、店が見つからない。どんどんと暗くなっていく。


遠くでライトアップされた風車が3基、たいして風も無いのにスムーズに回っている。これシャッタースピード0.5secです。台風とか遭遇したらどうするんだろ。飛行機のプロペラみたいにピッチを変えるのかな? それにしたって無事ではすまないような気もするのだが。


とうとう、蕎麦屋にも温泉にもめぐり合えないままに、磐田ICに到達してしまった。



磐田ICから東名道に乗る。気圧は1010hPa。特に不安無く走れている。風は強く気温は低く、まず使わないだろうと思っていた、冬用のインナーシャツを着る。
珍しいことに東名道には渋滞が起こっていないようだ。いつもは渋滞を避けるために御殿場で降りて、東富士五湖道路→中央道や国道413に乗り換えるのだが、たまには横浜町田まで東名道で行ってしまうことにする。
そんなわけで、初めて足柄サービスエリアに入ったところ、このサービスエリアにはレスト・イン足柄というホテルがあるらしいのだ。ということは諏訪湖サービスエリアみたいに温泉もあるんじゃないかと思っていたところ、温泉ではないが「あしがら湯」という風呂はあった。


展望があるわけでもない普通の風呂なのだが、ひとまず12時間以上も走りまくっていた疲れが癒せてありがたい。
そんなわけで、帰宅したのは伊那を出発してから17時間後の深夜2時。途中でガス欠バイクを押したこともあり、さすがになかなか疲れた。