思い入れフィルターは恐ろしい

部屋の模様替えをしていたら、高校生のころに作ったギターの完成記念写真が出てきて、真っ赤に赤面しつつ大笑いしてしまった。なんだこれは。ひどすぎる。とてもひと様に見せられたものじゃない。しかもレフ板とか使って、真剣に撮影していたので、さらに笑ってしまった。
作った当時は、もう自己満足まんまんで、世界中に自慢したい気分だったことを思い出すと、さらに赤面が増してしまう。こんなんでかよ。どうみても手を抜きまくりのおもちゃですよ。
思い入れフィルターというのは恐ろしいものである。
冷静になって客観的に見れば、こんな恥ずかしいシロモノなのだが、自分が苦労して作ったという思い入れが強ければ強いほど、光り輝いて見えてしまう。

特に学生のころとか、同じ世代でほぼ同じレベルの人間が、友達感覚でごちゃっと固まっていると、そういう思い入れフィルターはいっそう強烈になってしまう。自分がどれだけ苦労して、どれだけ思い入れがあるかなんて、お友達以外には、まったく知ったことではない。
苦労してちょっと出来るようになると、世界中でこんなこと出来るのは自分だけだろう、みたいに気分が高揚してしまうのだが、もちろんそんなわけはない。独学には善し悪し両面あるだろうが、罠があるとすればこの点だろう。
とはいえ思い入れフィルターって、不可避なものであって、よほどの天才でもなければ普通は一度は通過するものだから、否定すべきものでは全然ないんだけど。むしろ赤面・爆笑ですむ学生のうちに、ガンガン経験しておくべきなんだろう。
これが高校生のころでよかった。20台半ばを過ぎて、こんなシロモノに思い入れフィルター全開で自己満足なんかしていたら、あまりにも痛すぎる。

さて話は戻して、ギターと言っても、さすがにアコギは作れません! ソリッドボディのエレキギターです。
中学生から高校生の間に、4台作っていたのだった。
いまでもそうなのだが、当時はさらに自分が演奏することにはほとんどこだわりが沸かず、ほぼ全く演奏の練習はせずに、エレキギターのメカニズムが面白くて、製作と改造ばっかりやっていた。
最初にフェンダージャパンのストラトキャスターを買い、これを分解して、ネックやパーツだけを使い、ボディと回路だけ自作していたのだ。
最初からボディを自作することを夢見ていた(だからネックが分解できるストラトを選んだ)ので、このギターがストラトキャスターの姿をしていたのは、最初のわずか半年だった。

自作1台目は、中2のとき、ホームセンターで売っていたラワン材を、ほぼその姿のまま、四角形のままで作ったものであった。とはいっても単純に曲線に木材を加工するスキルがなかっただけなのだが。Player誌で見たボ・ディドリーのギターの写真を見て、なんだこういうのもアリなんじゃん、と安易にエクスキューズを見つけて自己満足していた。当時ボ・ディドリーの音はまったく知らなかったのだが(今でもベスト盤1枚しかもっていない)
薄めのラワン材を3枚用意して、下部でネックを接続し、真ん中・上部でピックアップや回路用のザグリ穴を作り、それを接着剤で貼り合わせた。
この作り方自体は、これ以降の自作4台とも共通だった。
塗装は、プラモ用のホワイトだった。クリアーすら吹かなかった。
これの音は、なんか鼻が詰まったような、もわーっとした、気合のすっかり抜けた音で、あまりにもひどいシロモノであった。ピックアップや回路は、オリジナルのストラトと全く同じであるのだが。思い入れフィルターバリバリの当時ですら、とても満足できなかった。ソリッドギターでも、木材が音に与える影響って、かなりあるものなんだなと思った。ネックやブリッジの取り付け精度の問題なのか、オクターブチューニングが合わなかったのもひどかった。

この自称ボ・ディドリー気取りのギターは1カ月くらいしか生き残らなかった。
自作2台目は、懲りずにラワン材で、フライングVっぽい形のものを作った。もちろん理由は形状が直線メインで加工しやすいからだ。
前回の反省を踏まえ、ピックアップのマウントは、木材の影響が少なそうな、ピックガードからのフローティングマウントにした。
塗装は、やはりプラモ用で、木目が透けて見えるクリアーのグリーンという、たいへんに気持ち悪いセンスのものであった。なんでそんな変な色を選んだのか覚えていない。
これもやっぱり同傾向の音質でがっかりだった。チューニングもやっぱり変。
こちらはたしか2カ月くらいは使っていたかな? しかしその後、自作熱が醒めてしまって、結局元のストラトボディに戻した。

自作3台目は時が過ぎて高校2年の夏休み、幽霊部員だがいちおう美術部員だったので、美術室にある電動糸ノコを使って、ようやくまともにギターっぽい形状にチャレンジできるようになった。既存のデザインに似ないようにとスケッチを繰り返していたのだが、結局BCリッチっぽい、先端が尖って、全体がうねうねした曲線のデザインであった。
紙にスケッチしたものを、拡大コピーを繰り返して型紙を作り、カーボン紙で木材に転写した。これでパーツの取り付け精度はちょっとマシになった。
木材はようやくまともなものを使えた。ギターマガジンに、ギター用木材を売っている店の広告を発見したので、たしか5cm厚くらいのアッシュ材を買い、近くの木工所で3枚に薄く分解してもらった。もったいないが加工のためにしかたがない。
回路は、PUごとにON/OFF/位相反転ON切り替えできるように変更。
もともとがストラトなので、そのシンクロユニットを使い、アームが使えるようにしたのだが、精度が悪いせいか、アームを使うたびにチューニングが狂う。あきらめて前2台同様、ブリッジは固定にした。
塗装はサンバーストに挑戦。やっぱりプラモ塗料だが、思ったよりちゃんとサンバーストに出来た。BCリッチっぽい派手な形状とは似合ってなかったが、サンバーストをやってみたかったのだ。
音もようやく、まあ普通に聞けるようになった。乾いた感じのサラっとした音。フロントとセンターを逆位相で並列にONすると、妙にレンジの狭い、プーンとした音になって、使いどころはなかったのだが面白かった。
当時はようやくまともにギターっぽい形のものを完成させたうれしさで光り輝いて見えたのだけど、いま見ると曲線がデコボコしていたり、塗装が凸凹していたり、ピックガードの穴が滑らかじゃなかったり、あきらかに素人工作だ。それでも4台のうちではこれが一番まともな出来であった。

自作4台目は高3の夏休み。3台目と同様の工作方法。今度はピックアップや回路をガラリと変えた。当時レッドウォーリアーズのギターの音が好きだったので、同じビルローレンスのシングルコイルを買い、取り付け位置も写真を拡大コピーして真似した。通常のストラトのリアPUより、2cmくらいネック側に寄った位置だ。
シングルコイルのセンターピックアップはリアPUになるべく近づけた。これはビルローレンスのリアPUとは磁極が逆のものを選び、後述するがリアPUとの組み合わせでハムバッキング接続できるようにしたのだ。これは磁極を最優先して探したので、メーカー不明のパーツ取り用2000円のものだった。
フロントPUはなんかよくわからんがヤマハがEMGと提携してたっぽい、正体不明のもの。EMGの文字が入っているが、普通のパッシブPU。これもパーツ取りで数千円だった。
切り替えスイッチはストラトタイプの5P。センターPUにはリアPUとの直列・並列選択SW、位相反転SWを追加。
これで5PSWでセンター+リアを選択し、直列SWONでハムバッキング接続になる。これはちょっと音が太すぎて抜けが悪くてガッカリだったのだけど、この状態でさらにセンターを逆位相にすると、中高域に癖のある、一種独特のエッジがある音になって、これがなかなかいい味を出していた。
数カ月経って制作時の熱狂が過ぎると、あまりの作りのの雑さに恥ずかしさがこみあげてきてしまい、結局ギターケースに入れて、部屋の片隅に隠してしまった。

あまりにも恥ずかしいので、パーツだけ残して捨てようかと思ったのだが、思い入れフィルターの恐ろしさの象徴として、自分を戒めるため、まだしばらく取っておくことにしました。