仮想空間計画 / J・P・ホーガン(若干ネタバレ)

同じホーガンの「内なる宇宙」と「ミクロ・パーク」を合体させたような、VR + AIもの。
前半はあんまり近年のホーガンっぽい(漫画っぽい)感じがしなくて、設定からしても、ホーガンというよりディック? と思ってしまうような感じだった。
しかしやはりというかなんというか、後半からは主人公がヒーロー的に大活躍の、いかにもホーガン調になっていくので、ついつい苦笑してしまった。訳文のためもあるかと思うのだが、ホーガンさんノリノリなのが実に良く伝わってくる。
苦笑してしまうのだけど、いい意味で漫画的な引きの強さはすばらしく、普段は家ではまともに読書できない僕なのに、ページを繰る手を止められず、眠るのも忘れて一気に読み終えてしまった。

仮想空間計画 (創元SF文庫)

仮想空間計画 (創元SF文庫)

図書館で借りて読んで、さっき返してきてしまったので、細部の記憶はあいまい。
乱暴にカテゴライズすれば「VR + AIもの」ということになるのだけど、AI構築の手法がなるほど、と思わせる発想の逆転で興味深かった。AI社会の中で、誕生と死亡がどう扱われているのか、つまり人口増加の社会的なメカニズムが、すっかりスルーされているのがちょっと納得いかないのだけど。

直接神経接続を用いたVRで、脳内にイメージを表出させるのに、人間が夢を見るときと同じ脳の作用を利用するという発想はとても新鮮だった。
オブジェクトを細部までモデリングするのではなく、ある程度のレベルにまで留めておいて、例えば「ナイフ」を「ナイフ」だと認識させる際、VRにログインした各個人のあらかじめ持っているイメージを利用し、細部を補完させる(合ってるかな?)という手法だ。なのでナイフの持ち主のAさんは、そのナイフのことを熟知しているから、柄に入ってしまった傷もVR内で再現されるが、それを同時に見ているBさんには、傷までは見えてこない…という具合になる。
オブジェクトの重要さに応じて、あらかじめ用意するデータ量を加減するわけだ。
実際にこのような作用を脳から引き出せるものならば、VRスペース構築の手法として、なるほど筋が通っているわいと感心してしまった。

もし仮に、現実と見まがうようなVRスペースを構築するとするならば、視覚よりも聴覚のほうが、再現は難しいと思われる。聴覚は視覚よりも抽象度が高いので、サンプルを用意して発音させる方式にしても、モデリングで発音させる方式にしてもハードルが高いように思われる。その点も完全スルーだったのは残念だ。
人間が2つの耳で、左右前後上下を聞き分けられるメカニズムさえ、まだ解明し切れていないのだし…。

ホーガンらしく、いい意味でいろいろと想像の翼が広がって止まらないSFです。