スロー・リバー / ニコラ・グリフィス(バレ無し)

SF文庫に加わってはいるけど、どうみてもミステリのほうが近い存在の小説。
本の時間軸が同時平行で進む構成なのだけど、時間軸が交わり出す後半になってからは、ページをめくる手が止められない勢いで読んだ。

スロー・リバー (ハヤカワ文庫SF)

スロー・リバー (ハヤカワ文庫SF)

僕みたいに、SF小説には目から鱗を落としてもらいたいと思っている向きにとっては、これをSFと括るのには抵抗があるのだけど、そこに拘らなければなかなか面白い小説であった。
先日まではバクスターやホーガンを読んでいて、それがまさしく「目から鱗が落ちる」系のSFだったこともあって、「SF」を期待して読んでしまうと物足りなさはどうにも感じる。
しかし逆に、バクスターやホーガンに感じる、「SF」をひとまず置いたところでの「小説」としての物足りなさ、登場人物が類型的で平面的な感じ、輪郭をザックリした太線で描いてその輪郭内を塗りつぶしているだけのような感じがなく、人物の描写を読むだけでも随分堪能させてもらった。
ちゃんと人物が血の通っている人間になっていて、読み進めるにつれて実在感を伴って、頭の中で人物のディティールが細かく書き加えられていく。

解説によるとフェミニスト小説としての側面も強く持っているらしいのだが、その手のをこれまで読んだことは無いし、周りにフェミニズムの土壌が全く無い僕には、どうしても違和感として印象に残ってしまう。
この小説内の男性は不自然なくらいに誰もが存在感が薄いか、「弱い」存在として描かれている。ちょっと意図が見え過ぎる。主人公と出会う女性はほぼレズビアンだし。
以前に、無宗教土壌の日本で育った僕には、SFで時々出てくる科学VS宗教の図式、宗教が科学にとって「アンチ」の対象になることに違和感がある、と書いたことがあるのだが、それと同じ感覚だ。

かなりネタバレに近づくが、結局のところ黒幕であった○が、そうだと悟られる前に描かれたシーンがあそこしかないので、読者に人物像が描かれない印象なのが気になった。そのため最後の最後で説得力が少々弱くなってしまったような。
読んでいるものの胸にいまいち迫ってこない。他人事感が沸いてきてしまう。○があのような行動を取ることの必然性は伝わるのだけど、ああ必然だったんだね、で終わってしまう感じ。

などと、どうしても気になるところのほうが語り易いので、ネガティブに語ってしまったのだが、読み応えが素晴らしかったです。他のものも訳されていたらぜひ読んでみたいと思う。