世界最速のインディアン(若干ネタバレ)

ボンネビルでの二輪1000cc以下の最高速度記録を樹立する老人の映画。しかも実話らしい。という設定だけでぜひとも観てくることにした。

・公式サイトはこちら
・あらすじはこちらで見たほうがいいです。公式はFlashなので面倒

それを1967年にインディアンで?! インディアンって戦前のバイクじゃなかったか?
インディアン・モーターサイクルについてはこちら
とにもかくにもこれはぜひ見に行くことにした。

ニュージーランドからボンネビルでのタイムアタックに至るまでの珍道中、バート老人に関わる人々に、バートの熱気が伝染するように広がって行く。もちろん観客である僕にも。
裏の無いバーとの笑顔と言葉と行動に、関わる人々は、なにか手助け出来ることは無いかと考えずにはいられない。…と、言葉で書くとものすごく簡単に書けちゃうのだけど、演技で表現できるというのはすごいことだ。
世界最速記録という、誰の目にも明らかに優劣がつく偉業を、「やってやる」と決意して、実際「やりとげた」人への、これ以上シンプルにできないほどシンプルで原始的な、賞賛と尊敬と共感と感動。

たぶん今年観る映画の中でこれがベストになる予感が既にする。
机の前に座り一歩も動かないで、計画を練るだけだったり抽象的な概念を弄ぶだけだったり、何かを「やりたい」ばかりで何を「やれる」か「やらなければならない」かを考えようともしなかったり、そうなりがちな人々はぜひ見るべき映画。DVDが出たら自戒のためにぜひ買っておくつもりだ。

これが原作本。こちらもさっそく買わなければ。

バート・マンロー スピードの神に恋した男

バート・マンロー スピードの神に恋した男

気になるところが一点。以下若干ネタバレ
インディアンで最高速度記録を樹立するということの困難さが、原作を知らず、オートバイに詳しくない観客には、伝わりにくい演出なのだ。これは意図的なものなのだろうか?

後半、実際にボンネビルでの競技会に至ったところで、ようやく、バートのインディアンが、映画の舞台当時でも、骨董品並みに古臭い代物だということを、観客は知ることとなる。オートバイへの知識が少ない観客は特に。
映画の舞台がいつなのか、映画前半では明確に語られない。街中の様子や走っている車からして、50~60年代かな? とは思ったのだが、若い観客にはその推定がつかないのでは?
そのため、バート老人がいかに困難な偉業に挑戦しようとしているのか、伝わりにくい面があるのではないか?
しかし、前半であえてその点をぼかして、後半でようやく現実の厳しさを知る…という演出意図なのかもしれないのだが。これは意見の分かれるところだろう。

少なくとも僕なら、ニュージーランドの浜辺で、英車を駆るロッカーズ集団とのレースシーンで、ロッカーズ連中に、インディアンがその当時でも、いかに古臭いバイクであるか語らせたであろう。


ところで、さきほどあらすじを検索している過程でヒットした粉川哲夫氏のサイトで、「冒頭、バートが、ガレージの作業場でチタンを溶かして、鋳物を作っている。何とそれは、バイクのエンジンのシリンダーで」と解説されているのだが、これは誤り。
「冒頭、バートが、ガレージの作業場でチタンを含有した旧式車のピストンを溶かして、鋳物を作っている。何とそれは、バイクのエンジンのピストンで」なら正解。チタンをピストン用途として理想的に含有しているものを、この世に数多あるなかから探り当てるという、バートの執念を演出した、冒頭としてけっこう重要なシーンです。物語の解釈的に問題が生じるような点では無いのだけど。
下手したら、日本語字幕もこんな感じに訳されてしまったかもしれないのだが、抜かりなくモリワキ・エンジニアリングが監修しているので、僕程度の知識では文句のつけようが無かった。
僕も自分の弱い分野については、こんなふうに誤った解釈をいろいろ書いているに違いないだろうな…。