SIRでチープに自作IRリバーブを使ってみる

VSTのフリーのコンボリューションリバーブ、SIRを使ってみた。

・knufinke "SIR"

僕の場合、VST to RTASで変換して使っている。仕方が無いがレイテンシーが8960と大きい。48KHzなら約18msec。
センドで使うと最低、これだけのプリディレイがかかるわけだから、空間に溶け込ませるようなリバーブとしては使いにくい。せっかくのコンボリューションリバーブなのに。
仕方が無いのでインサートで使うのだが、自動レイテンシー補正がないと、扱いが面倒である。
これまた仕方が無いがCPU負荷も大きい。

しかしこのSIRには、単純なWAVファイルをそのまま直で畳み込めるというメリットがある。おそらくそのせいでレイテンシーが大きいのだろう。もちろんフリーでコストゼロだということも大きい。
なので気軽に、ちょっとした思い付きで適当なWAVで畳み込むのをトライアル&エラーできる。これは良い。

せっかくなので、自作でIRデータを作成してみることにする。
耳慣れた、自宅の風呂の響きで、まずは検証してみることにする。
実際の採取方法としては、こちらがたいへん参考になりました。

厳密にIRデータを採取しようとすれば、インパルスではなく、TSP(Time Streched Pulse(時間引き延ばしパルス))を使用するほうが有利のようだったり、12面体スピーカーを使用して無指向に放射したり、いくらでもこだわりようがあるのだけど、自分のできる範囲で、とりあえずさくっとチープに、できる限りのことをやってみる。

まずはインパルスをいかに発生させるかが問題となるわけだ。
落としてきたIRデータのドキュメントを読んでみたところ、風船を破裂させることによってインパルス(に近い波形)を得た…という記述があって、なるほど良いアイディアだと思った。
そのほかにもいろいろググってみると、エアパッキンのプチプチをプチン!と潰す音が使えるとの情報を得た。
風船と比べたら音量は小さいのは難点だが、今回は自宅の風呂程度のサイズだから問題ないだろうし、風船破裂よりもむしろインパルスに近いような気がする。これも良いアイディアだ。さっそくパクらせてもらった。
レコーダーもこれまたチープに、さくっとH4で録音する。

さてSIRに録音したIRデータを読み込んでみる。
こんな適当な方法であるにも拘らず、見事に、聞き慣れた自宅の風呂場の特徴が良く出た反響が得られる。
しかしパルシブな音、足音とかに掛けてみると、なんだか立ち上がりで一瞬フランジングっぽい響きが出てしまっている。
IRデータのダイレクト音(プチ!)成分、10数Sampleをカットすると、この症状は無くなった。この間の作業時間、30分。手軽だ。

しかし響きが多く重なると、IRデータに含まれている暗騒音が原因と思われる、ノイズっぽいいやな響きが強調されてきて、気になってくる。
そこで同期加算というテクニックを使ってみることにした。同じ音(この場合エアパッキンの「プチ!」)を複数重ねていくと、ランダムな暗騒音とは異なり、差別的に重ねあわされ、音量が大きくなるわけである。
以前にデジカメ雑誌だかニュートンだったかで読んだ、天体写真の撮影で使う、何回かに分けて撮影した写真を重ね合わせることによって、星だけを強調して、CCDのノイズを平均化して目立たなくさせるというテクニックと同じ考えだろう。

とはいえエアパッキンを潰すプチ!音は、どうしても毎回完全に同じにはならない。同期加算の効果がどのくらい出るものだろうか?
ひとまず、32回プチ!プチ!プチ!プチ!プチ!…と録音した。
そのうち、なるべく音の似ているもの上位16個を選び、サンプル単位で頭を合わせて加算してみた。トラックを並べて、歪まないようにピークを押さえてミックスしたわけである。
理屈では、これで12dB分、S/Nが良くなるはずである。けっこう面倒だが、12dBって苦労に見合う差だ。

作成してみると、最初のサンプルに比べて、たしかにS/N良くなってる。その点では間違いなく効果が出ている。
そのかわりに、広がり感やレンジ感は、比較すれば少々失われてしまった。肝心の響き成分が、16回分の誤差で打ち消しあってしまったのだろう。
しかしどちらを取るかと問われるなら、やっぱり同期加算をしたほうだな。厳密で学術的な音場再現をしたいわけではないのだから、ポスト処理で広がり感やレンジ感を変えてしまってもいいのだし。

安定して(擬似)インパルスを発生させる手段を考えることがキモだろう。エアパッキン方式以外にも、なにかいいアイディアがないか考えてみる。